学生の主体性を引き出す企画指導のコツ
看護学校では、文化祭や地域交流イベントなど、学生が主体となって企画・運営する機会が増えています。こうした実践の場は、看護実践に欠かせない「段取り力」や「協働力」を養う貴重な機会です。
しかし、「自由に考えてみて」と投げかけるだけでは、うまく進まないこともあります。そこで今回は、企画を形にするために教員が意識しておきたいステップと支援のポイントをまとめました。
企画案作成の基本ステップ
学生が思いついたアイデアを“実行可能な企画”に仕上げるには、段階的な整理が必要です。以下の7つのステップをベースに、段取りを支援しましょう。ホワイトボードに書き出したり、ワークシートとして可視化することで、学生の理解も深まります。
Step ① 目的の明確化
何のためにこの企画を行うのか?
→ 例:「地域の人と交流し、看護学生の活動を知ってもらうこと」
- 学内イベントか、地域公開型か?
- 健康啓発?交流促進?PR活動?
- チームで目的を一文にまとめてみる
Step ② テーマの決定
目的に合った具体的なテーマを設定する
→ 例:「ストレス解消法を伝える体験ブース」
→ 例:「高齢者と一緒に楽しめる健康体操」
- 興味・関心が持てるか?
- 対象に響く内容か?
- 他のグループと重複していないか?
Step ③ 対象の想定
誰に向けて行うかを明確にする
→ 例:「地域の高齢者」「中高生」「保護者」
- 年齢・性別・生活背景
- 対象がわかると、企画の深みが増す
- チラシや案内文の言葉選びにも直結
Step ④ 実施内容の検討
どんなことを行うかを具体化する
→ 例:「血圧測定」「ストレッチ体験」「健康クイズ」
- 企画の“見せ場”は何か?
- 体験型にする?展示型にする?
- 来場者の動線・時間配分も考慮
Step ⑤ 方法・手段の整理
準備・実施に必要な手順や物品を洗い出す
→ 例:「血圧計を借りる」「体操ポスターを作成する」
- 実施場所・使用物品
- 司会進行・説明係・誘導係などの役割
- 必要な物は借用?自作?購入?
Step ⑥ 役割分担・スケジュール調整
誰が何をいつまでにやるかを決める
→ 例:「〇〇さん→ポスター作成(6/5まで)」
- 準備段階のタスク割り振り
- 当日の担当者表(交代制も可)
- 教員が見える化して進捗管理をサポート
Step ⑦ リスク管理と代替案の準備
「うまくいかなかった時」に備える
→ 例:「雨天時は屋内で実施」「体調不良時の代理を用意」
- 想定されるトラブル:体調不良、機材不良、混雑など
- 対応パターンを事前に考える
- 予備人員やマニュアルが安心材料に
教員の支援ポイント

- 各ステップごとに「問いかけ」を用意しておく
例:「そのテーマで、誰が喜びますか?」「それは10分以内にできる内容ですか?」 - 話し合いを“構造化”するサポートを
例:KJ法やマンダラートでアイデア整理、ふせんで役割分担を見える化 - ワークシートやテンプレートを提供する(必要に応じて)
学生が参加しやすいテーマの選び方

「どんなテーマなら学生が主体的に取り組めるのか?」――企画の初期段階で、教員がよく直面する問いではないでしょうか。
特に看護学校の文化祭などでは、「やらされ感」ではなく「ちょっとやってみたいかも」という気持ちを引き出すテーマ設定が成功の鍵となります。学生が自分から関わりたくなるテーマには、以下のような共通点があります。
「自分ごと」として考えられるテーマ
学生自身の生活や学びとつながっている内容は、取り組みやすさ・考えやすさが格段に違います。
- 例:「看護学生が実践しているストレス対処法」
- 例:「夜勤に備える生活習慣チェック」
自分たちの経験や知識をもとに構成できるため、アイデアも出やすく、発信する意欲も高まりやすいです。
体験や対話を含むテーマ
見学型や展示型の企画に比べ、体験型や対話型の方が学生の関与度が高まります。
- 例:「高齢者とのふれあい健康相談」
- 例:「赤ちゃん人形を使った育児体験ブース」
来場者とのインタラクションがあることで、「やってよかった」「楽しかった」という実感も得やすく、達成感につながります。
「やってみたい」が生まれるテーマ
楽しく、気軽に取り組めるテーマは、特に導入時に効果的です。最初の一歩を踏み出す心理的ハードルを下げることができます。
- 例:「健康クイズ大会」
- 例:「からだ年齢測定コーナー」
- 例:「血圧ビンゴゲーム」
「おもしろそう」「そんなのやってみたい」という第一印象が、学生の主体性を引き出すきっかけになります。
教員のサポートとしてできること
- まずは学生自身の「困りごと」「面白かった授業」「実習での印象的な体験」などからテーマを引き出す
- すでにある定番企画にも「自分たち流」の要素を加えるよう促す
- 先輩たちの企画例を提示しつつ、「今の自分たちならどうする?」と問いかける
企画案作成時の注意点とよくある失敗例
企画案づくりは、最初からうまくいくものではありません。学生が初めて取り組む場合は、必ずといっていいほど「あるあるの失敗」が出てきます。大切なのは、失敗を責めるのではなく、教員が“伴走者”として寄り添い、方向を一緒に整えていく姿勢です。
以下は、文化祭企画などで実際によく見られるつまずきと、それに対しての教員からの支援のヒントです。
よくある失敗 | 教員の視点からの支援 |
目的が曖昧で内容がぶれる | 「この企画を通して、誰に何を伝えたい?」と問い直す。学生自身の言葉で目的を再確認させる。 |
内容を盛り込みすぎて、企画が破綻する | 「この中で一番伝えたいことはどれ?」と優先順位を整理。欲張りすぎず、シンプルにまとめる。 |
対象が不明確で準備がズレる | 「誰に向けた企画?」を年齢・関心・来場目的なども含めて具体的にイメージさせる。 |
役割があいまいで当日混乱する | 「各パートの責任者は誰?」と明確化し、役割分担表の作成を促す。 |
トラブル時の対応が未想定 | 「もし○○が起きたら、どうする?」と想定質問でリスク対応を意識づける。 |
指摘ではなく「可能性を引き出す問いかけ」を
教員として心がけたいのは、「できていないところを指摘する」よりも、「どうすればもっとよくなるか」を一緒に考えるスタンスです。
- 「この企画、実際に自分が来場者だったらどう感じる?」
- 「この準備スケジュール、現実的に無理がない?」
- 「ひとつでも自分がワクワクできる部分ある?」
学生はまだ“企画の全体像”や“運営のリアル”がつかみにくい段階です。教員のちょっとした問いかけや整理のサポートが、学生の視野を広げ、主体性を引き出すきっかけになります。
フォーマットに頼りすぎない工夫
企画案を指導する際、多くの教員が用いる「企画案フォーマット」。
たしかに、学生にとって考えるべき要素が可視化され、全体を整理するには非常に有効です。
しかし、あくまで“型”は型にすぎないということも、忘れてはなりません。
形式にとらわれすぎると、本来大事にしたい中身や、学生の発想の芽が見えづらくなることもあるのです。
フォーマットは「考えるヒント」である
「すべてを埋めること」が目的になってしまうと、本末転倒です。
学生が書いたシートを見て、「何も書けていない」と焦る姿も見かけますが、それは“まだ考えきれていない部分が可視化された”ということ。むしろ前進です。
◎ポイント:「空欄=ダメ」ではなく、「考える余白」として捉える
項目の順番や表現にこだわりすぎない
たとえば「目的」「対象」「内容」「方法」などの順序や語句は、あくまで整理のためのフレームです。
大切なのは、“誰に・何を・どうやって伝えたいか”がブレずに伝わること。
学生の言葉で書かれているなら、多少形式が違っても問題ありません。むしろ、その方が思考の痕跡が表れやすく、教員にとっても支援の糸口が見つけやすくなります。
完成度より「考えた過程」に価値がある
企画案は「完成品」を見せるためのものではなく、「思考のプロセス」を共有するツールでもあります。
学生が悩み、行き詰まり、修正を重ねた過程こそが、実は一番の学びです。
途中段階でのシェアやフィードバックを大切にし、企画の“成熟”よりも“成長”に目を向けましょう。
教員の関わりとして大切なこと
- 「どうしてこのアイデアにしたの?」という問いで背景を引き出す
- 「ここはまだモヤモヤしているみたいだね」と、考え中の部分を肯定的に捉える
- フォーマットを“評価基準”ではなく、“対話のツール”として活用する
おわりに
学生にとって企画活動は「正解のない問い」に取り組む経験です。教員が支援する際には、「考える筋道を見える化すること」と「問いかけによる思考の広げ方」が鍵になります。
「良い企画案」を作ることがゴールではなく、「企画を通して何を学び、どう成長するか」を大切にしたいですね。
文化祭という特別な機会を、ぜひ教育的な意味でも最大限に活かしていきましょう。

TUQRU(ツクル):HPより引用
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